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2018.09.18 COLUMN

ビジネス基礎力を判定する小論文試験のススメ

朝晩はすっかり涼しくなり、熱帯夜続きの日々が、随分遠い昔のように感じられます。これからは食欲の秋?になりますが、採用担当者の皆さまにとっても実り多い秋になりますよう、採用に有益な情報をお伝えしてまいります。

さて、今回は、選考のどこかに小論文試験を導入し、応募学生の基礎的な力のひとつを判定してみましょう、というお話です。

選考は一般的に、書類選考→筆記試験→複数回の面接→内定という流れ(フロー)で進んでいきます。もちろん、母集団の多い企業では、面接を3回以上実施するというところもあるでしょうし、母集団の少ない企業では、面接が1回というところもあるようです。

選考の初期階層では、適性試験を行うのが一般的です。適性試験のメリットは、一斉に同じ試験を実施し、同じ基準で応募学生の基礎学力や特長を確認できることです。適性試験の結果を踏まえ、その後の選考フローに活かすことができます。

学生が”対策”可能な適性検査

その適性試験で、最もポピュラーなものといえば、リクルート社が開発した「SPI」でしょう。「SPI」は主に、国語力を見る言語分野、数学的な力を見る非言語分野、性格適性検査の3分野で構成されています。いわば基礎学力や(業務)適性を見極めるもので、母集団の多い企業ですと、面接に進む学生を絞り込むための”足切り”で利用されることも多いようです。

この「SPI」、私立文系3教科や推薦入試、あるいは”エスカレーター式”で付属高校から進学した学生にとっては、かなりの曲者。弊社が運営する「就勝ゼミナール」の学生を見ていると、非言語分野を苦手にしている学生は、思いのほか多いです。私も大学は私立文系3教科で、「SPI」には散々苦しめられました。

最近は、「SPI」対策の参考書が多数出版されており、その本を使って対策する学生は多いようです。これはこれでよいことですし、就職試験=受験と捉えるならば、むしろ当然のことでしょう。その一方で、中には、性格適性検査の章で、「この質問がきたらこう答えよう」といった記述のある参考書もあり、ともすると、嘘をつく対策までして入社しようとする学生もいると聞きました。

また、在宅で受験可能なウェブテストで、以下のような傾向が見られるようです。

ウェブテストで「替え玉受験」が横行している

ウェブテストは、在宅で受験ができる適性試験のことです。所定のサイトにアクセスして、IDとパスワードを入力してログインし、所定の期間までに受験します。

このウェブテスト、企業側にしてみれば「あとは所定の期間までに受験しておいてくださいね」と言った具合で手が離れ、手間がかかりません(お金はかかりますが)。

しかしながら、在宅で受験ができるので、実は「替え玉受験」の可能性が高くなります。応募学生からすると、試験監督の顔(=企業の担当者の顔)が見えないので、カンニングし放題ということにもなります。そうすると、応募学生の真の実力が見えにくくなってしまうので、テストそのものの実効性に疑問符がついてしまいます。

実際、例えば、数学の苦手な学生が、数学の得意な学生に横にいてもらってウェブテストを受験するというケースがあり得ます。いわば、他人の頭を借りるということでしょうか。「だって、どうしても入りたい企業なんですから、それくらいいいじゃないですか!」と言って「替え玉受験」を容認するかのような趣旨を発言する学生もいるようです。

つまり、ウェブテストでは、学生の真の学力が見えにくくなり、実効性そのものが疑わしくなってしまう、ということがいえるのではないでしょうか。

そこで、導入をすすめたいのが、小論文試験です。

小論文試験は、一般企業でも導入が進んでいる

小論文試験とは、入社試験で課される短い論文のことです。与えられたお題(テーマ)に対して問題提起を行い、だいたい60分800文字程度で論述してもらいます。小論文は、公務員、新聞社・放送局・出版社の筆記試験で課されることがほとんどでしたが、最近は一般企業での導入も進んでいるようです。

弊社の「就勝ゼミナール」に通っていた学生からこんな声を聞きました。

「先輩から聞いた話なんですけど、ある大手企業の筆記試験のスタイルがガラッと変わったようです。前は、筆記試験でウェブテストとか『SPI』だけだったそうなのですが、なんと先輩のときは抜き打ちで小論文も課されたそうなんです。どうしましょう?ヤバくないですか!」(西南学院大学・IT系企業内定女子)

これは、もはや「SPI」やウェブテストだけでは、学生の適性や知性を判断することが難しくなってきていることから、小論文試験の導入に踏み切ったと推察されます。

では、採用担当者の皆さまにとって、小論文試験を選考フローの一部に導入することのメリットは、一体どこにあるのでしょうか。以下、解説していきましょう。

メリットその①:応募学生の価値観や知性を知ることができる

あるテーマに沿った小論文を書いてもらうことで、応募学生が普段からどんなことを考えているか、価値観を知ることができます。

また、テーマが時事的なものでしたら、応募学生の知性を知ることもできるでしょう。もちろん、時事問題への興味・関心を持っているかどうかも、垣間見ることができ、一挙両得といえます。

メリットその②:応募学生の文章力や論理的思考力を見ることができる

何といってもこれではないでしょうか。文章力は、ビジネスの基本です。文章を書く機会は減っているように見えて、実は増えています。昔から存在する業務日報や報告書だけではなく、企画書、メール、SNS、御礼状…。実は昔よりも、文章を書く機会は増えているでしょう。

著名なコピーライターの糸井重里氏は、著書『インターネット的』の中でこう述べています。

インターネットの登場で、文章を書くという「難しそうな行為」が、実は「誰もできるじゃん」と思われるようになってしまいました。大人たちの顰蹙(ひんしゅく)を買っているケイタイのiモードでのメール打ちなども、あれはあれで文章を書くということをしているわけです。
(中略)
しかし、いまホームページを開いている青年たちも、電子メールでともだちと「おしゃべり」をしている少女たちも、平気で原稿用紙2枚分くらいの原稿は書いているはずです。
(糸井重里著『インターネット的』PHP新書/より)

今から17年前の2001年7月に出版された本なので、いささか時代を感じますが、本質的には今と変わっていないのではないかと考えられます。

学生たちにも、文章を書く機会はあります。ただ、増えた機会の大半は、SNSだったり、メールが多いのではないでしょうか。つまり、まとまった、論理的な文章を書く機会というのは、せいぜい大学のレポートや卒業論文程度でしょうか、思いのほか少ないといってもよいでしょう。そう考えると、意外と学生自身の「論理的な文章を書く力」は、案外弱いのではないかと思います。

以前のコラムでも触れましたが、LINEやインスタグラムといったSNSでは、言葉や文章を介在しなくとも、スタンプや写真を1枚投稿するだけで「いいね!」の承認をもらえます。そうすると、「これで伝わるんだ」と思ってしまい、文章を書く機会は自ずと減り、当然、履歴書やエントリーシートに書く、まとまった文章を組み立てるのに難儀するのです。

また、受験で小論文が必要な大学を受験した学生を除き、多くの学生たちが、今までの義務教育、高等教育の中では、小論文の書き方を習っていません。ビジネスの基本のひとつである文章力が低下してしまうのも、無理からぬことでしょう。

しかしながら、書くことは社会に出てからも続きます。さすがに文章の書き方を採用担当者で教育・研修する時間は、そこまで取れないでしょう。最低限の文章力を求められる小論文を書いてもらい、ビジネスでの基礎的な力が備わっているかどうかを判断し、より質の高い学生を採用するのに、適している試験方法だと考えます。

メリットその③:面接の救済措置として

弊社の「就勝ゼミナール」の学生にも、話すのは苦手でも、書くのは得意という学生はいます。しかも、かなり論理的な文章を書けるのです。そうした学生は、苦手な面接選考で、自分の考えを上手に表現できずに、あえなく不採用になってしまうケースが少なくありません。

話すのが苦手でも、文章を書くことに対して他の学生よりも優れており、ビジネスで成果を出す可能性を秘めた学生を「話すのが苦手そうだから」「しゃべれないからダメ」と切り捨ててしまうのは、もったいないような気がします。

面接選考とセットで見てあげることで、こうした学生を取りこぼすことが少なくなります。

実際、誰もが知る某放送局は、書類選考(かなり厳しいです!)後の一次面接を、一般常識・小論文試験+個別面接で行い、応募学生の満足度が高いようです。私の大学時代の親友も、「あそこはかなりじっくり応募学生と向き合ってくれる。僕はたぶん大学名で選ばれずに最終面接で落とされたのではないかと思うけど、受けてよかった」と話していました。

実は、質の高い学生を選び出すにも有効な小論文試験

たしかに、小論文は、読むのに手間がかかります。正解もありませんので、判断も人によってバラツキがあるため、採用試験に導入するのに抵抗があるかもしれません。

しかしながら、「文は人なり」という言葉があるように、小論文には、応募学生の人となり、知性、価値観などが反映されます。面接では見ることのできないことが、小論文試験を通じてわかることもあります。

基本的には、以下のチェックポイントに沿って見てやるとよいのではないでしょうか。
□論旨にズレがないか
□誤字・脱字はないか
□原稿用紙の正しい使い方を守っているか
□正しい日本語を使って書いているか
□文体が統一されているか:基本的に「だ・である」調が望ましい

採用試験は、もちろん自社で成果を出す人材を選び出すことにありますが、同時に成果を出せない人材を選ばないことでもあると思います。貴社で成果を出す人材を採用するためのひとつの選択肢として、小論文試験を加えてみてはいかがでしょうか。

大変長くなりましたが、今回もお読みいただきありがとうございました。また、来週お目にかかりましょう。