履修履歴面接で学生の本質を見抜く
9月が中盤戦に差しかかろうとしています。学生たちがそろそろ大学に本格的に戻ってくる時期ですね。2020年卒の新卒採用戦線が、いよいよ本格化しそうです。ともに準備を進めてまいりましょう。
前回のコラムでは、コンピテンシー採用面接についてご紹介しました。コンピテンシー採用面接とは、学生の過去の経験=行動について面接で詳しく聞くことで、成果を出す可能性の高い人物を採用する手法のことです。詳しくは前回のコラムをご一読ください。
さて、今回のコラムでは、履修履歴面接についてご紹介します。学生の間では「リシュ面」と呼ばれており、ここ数年で注目されている採用手法のひとつです。実は、場合によっては、コンピテンシー採用面接よりも、成果を出せる学生を採用できる可能性が高いといえるかもしれません。
履修履歴面接とは、大学の履修履歴(成績表)を見ながら、学業への取り組みや考えについて質問・確認する面接のやり方です。日本経団連が、「採用選考に関する選考指針」に盛り込んだことから、ここ数年広まりつつあります。
面接は、キツネとタヌキの騙し合い?
学生側は、面接で聞かれることに対してある程度準備し、回答します。「こう聞かれたらこう答えよう」といった具合ですね。もちろん、緊張状態の中で、自分の言いたいことや考えについて、面接官にきちんと伝えられるようにするために準備します。
しかしながら、その場しのぎのテクニックに走る学生がいたり、内容を脚色する(学生には「盛る」と言った方が伝わりやすいようです)学生もいます。
そうなると、面接という場が、もはやキツネとタヌキの騙し合いのようなものになってしまい、企業側としても応募学生の真の姿に迫ることが難しくなります。採用担当者の皆様にとっては、こうした脚色された話を聞いて信じて内定を出して、「こんなはずじゃなかった」という苦い思いをすること、できれば避けたいところですよね。
そこで注目されたのが、履修履歴面接というわけです。
「リシュ面」はウソをつけない
履修履歴面接は、学生にとっての第三者である大学の教官がつけた成績という”事実”“客観的データ”をもとに行います。当然、学生が捏造できるはずはありません。学生はウソをつけないわけです。
また、面接する企業側としても、事実や客観的データをもとに面接するわけですから、効率的に情報収集することができます。このことから、履修履歴面接は、学生と採用担当者にとって、お互いを知るためのよい面接になると思います。
もちろん、今までどおり「学生時代に頑張ったこと」や「自己PR」といった定番の質問もしていただいて構わないでしょう。ただ、そうした質問だと、応募学生側が話を脚色する可能性を捨てきれません。より成果を出せる人物かどうかを見極めるために、並行して履修履歴面接という手法を導入するのも、現実的な手法であるといえそうです。
そうなると、どうしても成績の優劣が評価基準になってしまうのではないか?という疑問が頭をもたげてくるわけですが、どうやらそれは誤解のようです。
成績の優劣だけではなく、学生の多面的な行動を見る
成績の優劣だけを見るなら、成績のよい学生を採用すればよいでしょう。
しかしながら、履修履歴は十人十色。同じ大学・学部・学科でも、必修科目を除けば履修している科目はバラバラです。
私の大学時代を振り返ってみますと、友人たちとは、必修科目を除いて何ひとつとして同じ科目を履修していませんでした。そこには、それぞれの学生の興味・関心が如実に表れているはずです(中には「単位が取りやすい」という理由で履修している人もいるようですが)。そういった学生の興味・関心について尋ねてみることで、どれだけ目的意識を持って学業に励んでいるかを見ることができるのではないでしょうか。
また、どうしても苦手な科目はあるものです。例えば、面接で「苦手な科目はありましたか?」と聞いて、その科目が思いのほか成績がよいということなら、苦手なことや義務で発生する業務に対しても、主体的に取り組んでくれる可能性が高いことがわかると思います。
質問の種類は様々ありますが、例えば以下のような質問をしてみてはいかがでしょうか。
□「どの程度授業には出席していますか?」
□「最も熱心に取り組んだ科目はどれですか?」
□「履修する科目は、どのような視点で選んでいますか?」
□「なぜこの科目を履修しようと思ったのですか?」
□「不得意な授業(科目)はありましたか?」
□「〇〇学とは、どのような学問ですか?」
□「〇〇という科目の評価が高い[低い]ようですが、これはどうしてですか?」
おそらく従来の面接に組み込んでも違和感のない質問ばかりだと思います。是非多面的なアプローチをしていただき、応募学生が成果を出せる人物かどうかの一つのやり方として、参考にしていただければ幸いです。
「新型うつ」予備軍の芽を摘み取る
建前論でしょうが、学生の本分とは勉強することです。その必ずしも好きではない勉強に対しての感じ方や取り組み方を、履修履歴面接を通して確認しておくことは、入社後のリスクを回避しやすくするでしょう。その入社後のリスクとは、「新型うつ」による休職です。
「新型うつ」を聞いたことはありますでしょうか?NHKが「職場を襲う”新型うつ”」(2012年4月29日放送「NHKスペシャル」)で特集を組んだくらいですから、耳にされた採用担当者の方も多いのではないかと思います。
「新型うつ」とは、勉学や仕事中だけ「うつ状態」になり、それ以外の状況になると、ウソのように元気になるというものです。彼らは、「うつ」で学校や会社を休むことに、それほど抵抗はありません。「会社が悪い」「上司のせいだ」などといって、むしろ「うつ」を利用する傾向すらあるそうです。なお、医学的に「新型うつ」というのはなく、「非定型うつ病」に近いとされています。
例えば、仕事が不調で「うつ病」の診断書が出て、しばらく療養のために休職を許可したものの、その休職期間中で、プライベートで旅行に行ったり、飲み会を楽しんでいたといったことがあるそうです。場合によっては、そうやって楽しんでいる様子を(不用意に)SNSに投稿し、それを見た職場の同僚や上司が怒り心頭に発するといった話を時折耳にします。
こういう感じの人を採用するのは、採用担当者にとっては、少なからぬリスクではないでしょうか。必ずしも好きとはいえない勉強に対しての感じ方や取り組み方を、履修履歴面接を通して確認しておくことは、入社後のリスクを回避しやすくすると感じます。
学業も頑張ってきた人をもっと評価していい
繰り返しになりますが、学生の本分とは勉強することです。必ずしも好きとは言えない学業をがんばっている学生は、その後、好きとは言えない仕事に直面しても、それなりに一生懸命取り組んでくれる可能性が高いといえるのではないでしょうか。
これまでの日本の新卒採用においては、どちらかといえば学業以外の部分での評価に重点を置きつつありました。もちろん、仕事で大事な、座学では身に付かない対人コミュニケーション力やリーダシップ力を評価の対象にするという点で、それはそれでひとつのよい点だと思います。
ただ、大学生の本分=やるべきこと=学業もしっかりやっている学生を、もっと評価してもよいのではないかと私は思うのです。仕事の第一歩は、やるべきことをしっかりやることから。その点からしても、学業を頑張っている学生は、入社しても、やるべきことをきっちりやってくれる可能性が高いと考えられます。採用担当者の皆様はいかがお考えでしょうか。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。それでは、また来週にお目にかかりましょう。