従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の正しい対応とは?

中小企業もパワハラ防止法の対象 求められることと未対応のリスク
2020年6月1日にパワハラ防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)が施行されました。企業には、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が義務付けられます。2022年4月からは中小企業も義務化の対象となります(2022年3月までは努力義務)。
厚生労働省「あかるい職場応援団」実施の調査データ(平成28年)によると、過去3年間に、実際にパワーハラスメントに関する相談を1件以上受けたことがある企業は回答企業全体の49.8%で、実際にパワーハラスメントに該当する事案のあった企業は回答企業全体の36.3%となっています(参考:あかるい職場応援団│データで見るハラスメント│企業内でのパワハラの発生状況)。
つまり、約3社に1社の割合でパワハラが発生していることとなります。
また、個人別に見ると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した人は回答者全体の32.5%であり(参考:同上│パワーハラスメントについての経験の有無)、この点からもパワハラは意外と身近に発生していることがわかります。
パワハラ防止法には罰則は定められていません。しかし、パワハラが発生した場合には、加害者のみならず、防止措置や発生後の対応を怠った会社側にも責任が生じます。
加えて、パワハラが発生すれば社内外からの印象が悪化したり、離職者の発生につながるなど、少なからず不利益が発生します。そのため、全ての企業が早急に自社の状況を見直す必要があります。
パワハラに起因する精神障害の労災認定基準も明確化された
パワハラは精神的なストレスをもたらします。パワハラ防止法の改正においてパワハラの定義が明確化されたことを受けて、パワハラに関連する精神障害に関する労災認定基準も明確化されました。
具体的には、労災認定基準の要件の一つである「業務による心理的負荷」について評価表の中に「パワーハラスメント」という項目が新設されました。これにより、パワハラに起因する精神障害について、労災の認定判断がしやすくなりました。
パワハラに限らず、精神障害による労災認定の件数は年々増加しています。
労災認定の有無がパワハラへの対応方針に直結するものではありませんが、自社にとっても身近な問題として、防止措置の実施状況を確認してください。
パワハラをしている自覚が無い、当事者が精神疾患の可能性が?
「従業員から急に被害妄想的な発言、怒鳴り散らす、様子がおかしい」
こういったケースは、従業員がうつ病など精神疾患の兆候である可能性があります。
従業員がうつ病などの精神疾患を発症したときは、正しい対応をしなければ以下のような重大なトラブルが発生します。
従業員が精神疾患を発症したときに誤った対応をすることにより発生するトラブル
ケース1:
うつ病など精神疾患の兆候が出ているにもかかわらず仕事を続けさせることにより、本人の症状を悪化させてしまう。
ケース2:
精神疾患の従業員の言動への対応で業務に支障が生じ、職場環境を悪化させてしまう。
ケース3:
仕事が原因でうつ病など精神疾患を発症または悪化させたとして、労災請求、会社に対する損害賠償請求の問題に発展する。
従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の適切な対応
では、会社として上記のような事態が発生した場合にとるべき適切な対応についてお伝えします。
対応1:医師からの正しい診断を受けてもらう
これが当事者と会社にとって最もメリットのある対応ではないでしょうか。
ただ、当事者にとってはクリニック受診と言うのはあまり気分の良いものでもないのも事実です。その場合に本人が拒否をするケースも当然ながらあります。その際は、家族に事情を説明をしてクリニックへの付き添いをお願いすることが考えられます。それでも本人が拒否する際には、会社からの業務命令としてかかりつけ医または会社と繋がりのあるクリニックに受診してもらうのも1つの手になります。
また、本人が精神疾患であると会社側が把握できた際に、上記のような業務命令にも従わない場合は、診断書が無くとも休職命令を出していくことも検討していく必要が出てきます。
このように、対応方法の順番はありますが、事が起こってからでは後手の対応になります。常日頃から従業員の心と体の状態管理は行っていきましょう。