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2020.12.22 COLUMN

数年後に迫った大量定年予備軍との向き合い方とは?

数年後に迫った大量定年予備軍との向き合い方とは?

今回のテーマは「定年後再雇用」です。
2013年の高年齢者雇用安定法の改正により、65歳まで従業員の雇用機会を確保することが企業に義務付けられるようになりました。2017年時点では、65歳まで雇用機会を確保している企業は99.7%になっています。一方、定年年齢は60歳に据え置きという企業が77.7%です。つまり、大半の企業において、60歳以降65歳までは1年ごとに再雇用契約を結ぶことが通例化しており、これがいわゆる「定年後再雇用」です。

企業としても定年を迎えるシニア社員の再雇用をめぐる議論は重要な経営課題となっています。特に、バブル景気に新卒社員として大量採用されたバブル世代(1986年〜1991年に新卒で企業に入社した世代)が今後10年以内に60歳を迎えることで、定年後再雇用に伴う人件費の高騰が無視できないほど大きな経営インパクトをもたらすことになります。しかし、定年後再雇用によるシニア社員の雇用や働き方に対する人事施策の多くは法改正の施行に伴う対症療法的な措置にとどまり、躍進を見据えた就業環境の整備や制度の見直しまでには至っていないのが現状です。

2017年時点で121万人であった人手不足数が、今後2030年には約644万人にまで達するとされる未曾有の人手不足時代において、定年を迎えたシニア社員を安価な労働力のひとつとしてではなく、価値を生み出す競争優位の源泉として捉え直し、彼(女)らの躍進を促す打ち手を一刻も早く講じる必要があることは明らかです。

60代のミドル・シニアをどのように見ていくのか?

ここで特に注目していただきたいことがあります。それは「仕事を通じた成長実感」を求めているということです。これまでは定年後、再雇用社員の活用に関する議論では、これまで培ってきた知識・スキルをいかに発揮してもらうか、世代継承するか、といった「専門性の活用」が話題の中心になりがちでした。
しかし、昨今では、定年後の再雇用社員の躍進の鍵は、専門性の〝発揮〟ではなく、〝さらなる向上〟(=成長)にあるということです。
定年を迎えた60代のミドル・シニアを「すでに成長の止まった人材」と捉えるか、それとも「今後も成長し続けられる人材」と見るか。定年後の再雇用社員のマネジメントに関わる全ての人が一度立ち止まって自らに発するべき問いではないでしょうか。

今後、更なる定年延長や定年廃止といった議論が現実味を帯びていく中、増加する定年後の再雇用社員の生産性向上が今まで以上に重要な経営課題となることでしょう。そこで今回の調査結果から示唆されるひとつの提言は、「職務の専門性を評価し、仕事内容(とその成果)に見合った処遇を提示する」ことです。それにより、給与水準に対する満足度の低さを是正するだけでなく、仕事を通じた成長をより志向するシニア社員の増加が期待できます。

もちろん処遇改善によって人件費の増加が見込まれることも想定されます。しかし、深刻な人手不足から新しく人を雇うコストが増大している今、すでにいる従業員のパフォーマンス最大化は一定の人件費増加を覚悟の上で検討すべき事項です。高齢化で膨れ上がった人件費を役職定年(ポストオフ)や定年後の再雇用によって一律にカットする、という現在の荒治療は見直す時期にきています。人は年齢を重ねても成長可能である、また人件費を「コスト」ではなく「投資」と位置づけ成果に応じた処遇をすることは、仕事や組織へのエンゲージメントを引き上げ、結果として生産性を向上させるという前提に立ち、ミドル・シニアに対しても成長度と成果に応じた評価報酬制度を整える、そうした議論が今後求められるのではないでしょうか。