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2020.09.29 COLUMN

人材定着のためのマネジメントとは

コロナ禍における人材定着の現状

なぜ、今「人材定着」が重要なのでしょうか。現在は、コロナ禍の影響で、以前と比べ求人は減り、求人倍率は低下しています。非正規雇用を中心として雇用不安も広がっています。

しかし他方、転職したいという意向をもつ人々も増えています。理由として挙げられているのが、「将来への不安から転職活動を始めた人」が多いほか、新しい生活様式に向けて、より柔軟に働ける環境を求める傾向・・・「在宅勤務」や「テレワーク」での勤務が可能な職種への転職希望者増加等です。現代的な課題を伴いつつ、組織に優秀人材が定着する重要性は変わりません。コロナ禍収束後は転職が一挙に増加し、人材獲得競争が激化する可能性は高いのです。そのため、今からそれを見据え「人材定着」を考えておく必要があります。

本コラムでは、現在在籍している社員に組織にとどまって活躍してもらう定着(リテンション)の問題を取り上げます。特に、リテンションを図るための組織のマネジメントに焦点を当てます。今回は、企業におけるリテンションの重要性について述べます。

人手不足の深刻化、社員の採用難とリテンションの重要性

図 わが国の生産年齢人口(15歳~64歳)の推移

(出所)2015年まで:総務省「国勢調査」;2020年以降:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」

 

わが国では、構造的な課題として少子高齢化の進行により人手不足が深刻化しています。図にみられるように、わが国の生産年齢人口は1995年をピークに減少を続け、2060年には4418万人と、2015年の7592万人から約3000万人も減少するといわれているのです。また、現在はコロナ禍の影響で正社員が不足している企業の比率は30.4%(前年同月比18.1ポイント減:帝国データバンク調査)と改善しています。しかし、建設、メンテナンス・警備・検査、教育サービス、農林水産業は4割を超え相変わらず人手不足感が高いといえます。人手不足感はコロナ禍終息後、一気に高まることが十分予測されるのです。

そもそも人手不足の原因は何なのでしょうか。民間企業対象の別の調査で最も多かったのが、採用が進まない(59.0%)、事業拡大(20.7%)、退職者増加(13.0%)でした。つまり、最も大きな原因かつ解決手段である採用が少子高齢化により困難であれば、在籍している社員に長く勤続しでもらうというリテンションが重要とならざるを得ないのです。さらに、退職率の低さは組織業績(売上高・経常利益)の高さに寄与していました。今後の構造的な労働力人口減少の中で、優れた人材をどう確保し、どう育成していくかは業績に直結する重要な問題になってくるのです。

リテンションが企業の競争優位につながる理由

企業間競争が激化している現代、なぜリテンションが競争優位につながるのでしょうか。

近年多くの企業で、定着率が組織の人的資源管理の成功の指標として注目されるようになってきました。実際、ある調査でも、企業が考える最も重要な人事課題の第2位が「優秀な人材の確保・定着」でした(第1位は「次世代幹部候補の育成」)。これにはいくつかの要因があります。

近年、若手を中心とした社員を長時間労働と残業代未払いなど、劣悪な環境下で酷使し使い捨てるブラック企業の存在が大きな話題となってきました。その結果、採用難を背景として、大学生等の就職活動で、退職率の高い業種や企業が敬遠される傾向が顕著になってきました。なぜなら、現代の就活生は、SNS等で簡単に企業情報を知ることができるからです。逆に、退職率の低下(リテンションの向上)は、採用にプラスになります。実際、S社では、「学校で『先輩が行ったところは割と雰囲気良さそうで楽しいよ。みんな勤めている』ことが伝わると、『あそこ行きたい』となる」そうです。そこで、多くの企業では営業目標等と並び、部下の定着率が管理職の重要な評価の要素になっています。例えば、X社では、管理職を評価する要素として部下のリテンション、具体的には「平均在社月数」までを重視しているほどです。

また、現在、多くの組織が取り組んでいる働き方改革では、女性も男性も、高齢者も若者も、障がいや難病のある方も、一人ひとりのニーズにあった、納得のいく働き方の実現をめざしています。つまり、すべての人にとっての「働きやすさ」の実現です。そして、働きやすいということは、多くの人にとって満足度の向上を伴って長く勤められることでしょう。つまり、働き方改革の結果として、リテンションの向上が求められているのです。

そして、企業が社員のリテンションにある程度自信をもてれば、将来的に企業に役立つスキルに投資をして、回収することもできます。つまり、社員の能力開発やキャリア開発のための投資が活発化します。社員の側も、組織に長期間在籍することで、社内の教育訓練によって職務遂行に必要なスキルを高めることが可能になります。とともに、長期的なキャリアプランを立てやすくなります。付随して、生活が安定し、心理的な安心感が高まる。これらのことから、リテンションと業績とのポジティブな循環が実現する可能性が高いのです。このように、現代では、リテンションの向上は、採用難の中、人材の採用にプラスになるなど、企業の競争優位につながる重要な要因となります。