ジョブ型採用に潜む人材流失という名の落とし穴
2021年卒採用から新卒一括採用に終止符が打たれ、通年採用がスタートしようとしています。もう少し具体的に言うと、職種を特定しない「メンバーシップ型」採用(例:事務系総合職)から専門スキルを重視する「ジョブ型」採用(例:テレビ局のアナウンサー職、技術職など)に移行するというものです。
この動き、「優秀な人材を我先に」と言わんばかりの大手のIT系企業では歓迎する向きがあるようで、「右にならえ」といわんばかりに追従する動きも数多くあると聞きます。人材大手のエン・ジャパンで執行役員を務める沼山祥史さんは、次のように述べています。
「正直、今更感が強い。楽天やサイバーエージェントなどウェブ系の会社の多くは、すでにジョブ型採用を取り入れている。そういった会社は採用市場での人気も高い」(2019年5月13日付NIKKEI STYLEより)
たしかにおっしゃるとおりでしょう。
ただ、このジョブ型採用、必ずしも手放しで歓迎できるわけではないようです。
“つぶし”が利かない
ジョブ型採用となると、基本的には採用された職種で、会社人生をまっとうするということになります。例えば、テレビ局でアナウンサーとして採用された人は、基本的にアナウンサーとして定年が来る日まで働くということです。
ただ、そういう人がいざ入社してみると、アナウンサーとしての適性がなかったということを時折耳にすることがあります。そうなったときに他部署への異動が叶わず、つぶしが利かなくなるということが考えられそうです。結果的に、退職というかたちになり、人材の流失につながってしまうということになりかねません。
先日、NHKの「クローズアップ現代+」でキャスターを務める、武田真一アナウンサーが、番組の中でこう述べていました。
「私はNHKに入局以来30年近くアナウンサーをやってきているので、つぶしが利かないんですよね」(2019年6月6日放送「クローズアップ現代+」より)
実は私、知り合いにアナウンサー、もしくは元アナウンサーの方が何人かいますが、皆さん口々に同じようなことをおっしゃっていました。
また、よりよい待遇を求めるがために、人材が定着しないということも考えられるでしょう。
専門職はよりよい待遇を求める
専門職は、その道のスペシャリストでもあります。同じ仕事をするなら、自分のところをより高く評価してくれるところを求めてキャリアアップしていくというのは、よくある話ですし、ある意味至極真っ当なことであるともいえましょう。「手に職」をつけているからこそできるといえますね。
例えば、病院でいうと、国家資格を持っている医師や看護師らは、よりよい待遇を求めて他の医療機関に移るケースがあり、また他の医療機関からの引き抜きも多いと聞きます。それが結果的に、人材の流失につながってしまうのかもしれません。
ゼネラリストタイプの人材が育たなくなる
専門家集団は、それはそれで強いですが、「トップは現場での経験を積んだ叩き上げがいい」という企業は、意外と多いようです。
そうすると、特定の業務しか経験していないという人材が育ってトップになったとき、社内外に情報発信するときになると、困る場面が多くなるのではないでしょうか。以前、安倍晋三首相が「総理大臣というのは森羅万象、ありとあらゆることを扱う」と述べていたのと同じで、特定の業務しか経験していないというのは、内外に向けてマイナスに働く局面が出てくるかもしれません。
これまでの「メンバーシップ型」採用は、職種を特定しない採用です。例えば、営業、事務、経理など、その人の適性を見極めながらジョブローテーションを組み、ある意味適材適所で業務にあたってもらうというものでした。例えば、営業職が合わなくても、事務職で能力を発揮するという例は、数多あります。それはそれで、人材難の時代において、人材の流失を防ぐという意味では、理にかなった一面もあるのではないでしょうか。「右にならえ」で「ジョブ型」採用というのは、少々危ういのかもしれません。
今週もお読みいただきありがとうございました。また来週お目にかかりましょう。